赤鼻とセイント・ミルクティ
「これ、よろしければお二人でどうぞ」
チカさんが帰り支度を整え、会計をしている最中。
胡桃さんが彼女に差し出したのは、ふたつのジンジャーマンクッキーだった。
ふにゃりと間の抜けたドレンチェリーの赤鼻が、ラッピング袋越しに笑いかけてくる。
「わあ可愛い……ふたつも貰っちゃっていいんですか?」
「もちろん。【noce】からのクリスマスプレゼントです」
ペアのジンジャーマンを手の平に乗せて、嬉しそうに鞄に財布をしまう彼女に、もう来店当初の面影はまったくない。
……あの日の俺も、こんなふうに見えたのかな。
ちらりと横目に見た胡桃さんの笑顔からは、何も窺えないけれど。
それでも、
「ミルクティ、すごく美味しかったです。話も聞いてもらえて、心が軽くなりました」
誰かの支えとなれたことは、紛れもない真実で。