赤鼻とセイント・ミルクティ
クリスマスイブの今日、ここ、紅茶専門店【noce(ノーチェ)】の店内も、クリスマス仕様に飾り付けされていた。
暖色系の照明に照らされた、カウンター上のミニチュア・クリスマスツリー。
扉にかけられた銀色のリース。
耳に心地いいBGMは、洋楽のウインターメドレー。
そして甘く漂う、あたたかな紅茶の香り。
主張はしない、でも華やかな、胡桃さんの入れる優しい味。
ここでバイトを始めて、もうすぐ1年が経つ。
それでも俺にとって、相変わらずこの場所は。
(――うし、仕事するか)
ようやく身体に馴染んできた黒エプロンのポケットに、胡桃さんのクッキーをしまい込んで。
俺は、ついさっきベルを鳴らして来店してきたお客さんのもとへと向かった。