赤鼻とセイント・ミルクティ
「す、すみません大丈夫です……あっ!」
そんな俺の手から慌ててソーサーを取り戻そうとした彼女。
その拍子にぐらりとカップが揺れ、テーブルへと倒れていく。
紅茶が波打ち、溢れていく――
――ゴト、
丸いカップがソーサーから落ちた鈍い音は、予想以上に店内に響いたらしい。
どうしたのか、とこちらに投げかけられる他のお客さんたちの視線の中で、彼女の顔はみるみるうちに赤く染まった。
「ご、ごめんなさい! わたし……」
「ああ、こちらで拭くので大丈夫ですよ。すぐ新しいのをお持ちしますね」
自分のハンカチを取り出してこぼれた液体を拭こうとする手を止めると、彼女は涙目になって俯く。
俺は思わず、苦笑い。