赤鼻とセイント・ミルクティ
 


……あ、これって。


ふわりと鼻孔を抜ける、ベルガモットの爽やかな芳香と、ミルクのとろりとした濃厚な甘み。

アールグレイだ。



「……はい、好きです」

こくり、申し訳なさそうに小さく頷く女性は、相変わらず泣きそうに顔を歪めているけれど。

胡桃さんは構わず少し屈んで、彼女がずっと握りしめている携帯を指差してみせた。


「そのストラップ、可愛いですね。硝子細工ですか?」

「え、あ、はい……。彼がお土産にくれたんです」

胡桃さんが見つけた、携帯に揺れる硝子のイルカ。

ところどころに青く模様が入ったそれは、店の明かりを反射してキラキラと輝いている。


「その“彼”を待っているんですね」

確信をもった、けれども穏やかな胡桃さんの言葉に。
図星だったらしい彼女は、決まりが悪そうにまた俯いた。


 
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