弓を張る月
「ちょ、ちょっと待ってよ、二人が元々知り合いだったって、一体どうゆう事?」
 学内で最も秀一郎と付き合いの深いであろう事を、心の中で少しばかり自慢にしていた絵梨子が、秀一郎の新たな個人データ漏洩に、俄然興味の目を輝かせて喰いついて来る。
「どういう事も何も、そうゆう事だよ」
 絵梨子の突撃レポーターぶりにタジタジになりながらも秀一郎が答える。
「はぁ~? だって、アンタ、T県出身でしょ? 砂丘でしょ、砂丘! 砂丘から生まれたんでしょ?」
「砂丘からは生まれて無い」
 秀一郎はポリポリと頭を掻きながら控えめにツッ込んだ。
「でもでも、以前話した時に北神さんは、確かS県出身だって言ってたわよ」
「そうね、確かに北神クンはS県出身だわ」
 神田も、この秀一郎と北神を結ぶ不思議な謎を前に、思わず絵梨子の記憶を裏付ける一言を付け加えずにはいられなかった。
「何で、山陰のT県と九州S県で知り合いになれんのよ? ちゃんと説明しなさいよ!」
「それはさぁ、あの~、何だ、実は俺が元々、S県出身だからだよ」
「ホント?」
「ホントだよ。こんなの、嘘言ってもしょうがないでしょ」
 ヤレヤレといった表情で、何やら観念したのか秀一郎は語り始めた。
「俺の親父が、元々S県出身なの。だから親父の実家はS県にあって、俺も小2まではS県にいたんだよ。その後、親父の仕事の都合でT県に引っ越す事になって、その上、俺が小学校を卒業する年に、S県の祖父母が相次いで死んじゃったから、結局は中学に入ってから以降、俺がS県を訪れる機会は一回も無かったんだけど……。んで、その親父の実家が、刹那の家とは同じ地域にあったワケ。だからまぁ、そういう理由で、T県育ち俺が、S県出身の刹那とは昔からの顔見知りだったりするワケなんだよ」
「成る程。北神さんとアンタを結ぶ謎の答えは、二人共に九州のS県出身の幼馴染だったという話ですか」
 絵梨子は、2時間サスペンスドラマの主演女優あたりが喋る様なセリフを、うんうんと頷きながら呟いた。
「そいうこと。ただ、正直な話、刹那と逢うのは十年ぶりだったからね、お互い最初は判らなかったんだけど、此処のゼミで一緒になったのを切っ掛けに話してみたら……ってワケさ」
< 13 / 15 >

この作品をシェア

pagetop