弓を張る月
そんなワケで、噂の秀才クンであった秀一郎だったのだが、人の噂も何とやら、いつの間にか彼は、学内の一風景に自然と溶け込んでいった。理由はいくつかあるのだろうが、それは、秀一郎自身の性格に拠る所も多かったと絵梨子は思っている。
正直、秀一郎の人となりを僅かでも知っていれば、誰もがスグに理解し、納得出来てしまうのではないだろうか。
彼、南秀一郎は、確かに非凡なる頭脳を持つ稀代の秀才なのかもしれない。しかし、それだけだった。本当にそれだけなのであった。
人間的には、何ら面白味の無い男であり、それどころか、呆れる程のぐうたら者ときていた。ワイワイと友達同士で騒ぐでもなく、大抵は一人で学内に植えられているソテツの木陰で芝生に腰を下ろし、咥え煙草で、ボ~ッと空を眺めているばかりの無気力な奴だったのである。
それでも何故か絵梨子は秀一郎への興味を失うコトは無く、その後も付き合いが続き、傍から見れば完全に友達と認識されるであろう間柄となった。これほど親しくなった理由の一つは秀一郎と絵梨子が同じゼミに参加したのが大きかったのかも知れない。
あらゆる分野に於いて非凡なる頭脳を持つ秀一郎であったが、彼が最も興味を持ち、その才能を注ぎ込んで研究している分野は文化人類学だった。そもそも、高校生の頃、彼が研究・発表して、一部で物議を醸すと同時に、彼の名前を一気にアカデミーの世界へ押し上げ、知らしめた論文『現代民俗学の可能性と限界~歴史無き民の為の比較文化学的冒険~』は、彼が今後、文化人類学を研究し続けていく為の宣誓の書として読み解くコトも出来る内容であった。
つまり民俗学を学ぶ為に進学した絵梨子にとって、秀一郎は凄く刺激的な存在であり、彼がたまに語る話は、絵梨子の学術的興味を十分に満たし興奮させるものであったワケなのだった。
正直、秀一郎の人となりを僅かでも知っていれば、誰もがスグに理解し、納得出来てしまうのではないだろうか。
彼、南秀一郎は、確かに非凡なる頭脳を持つ稀代の秀才なのかもしれない。しかし、それだけだった。本当にそれだけなのであった。
人間的には、何ら面白味の無い男であり、それどころか、呆れる程のぐうたら者ときていた。ワイワイと友達同士で騒ぐでもなく、大抵は一人で学内に植えられているソテツの木陰で芝生に腰を下ろし、咥え煙草で、ボ~ッと空を眺めているばかりの無気力な奴だったのである。
それでも何故か絵梨子は秀一郎への興味を失うコトは無く、その後も付き合いが続き、傍から見れば完全に友達と認識されるであろう間柄となった。これほど親しくなった理由の一つは秀一郎と絵梨子が同じゼミに参加したのが大きかったのかも知れない。
あらゆる分野に於いて非凡なる頭脳を持つ秀一郎であったが、彼が最も興味を持ち、その才能を注ぎ込んで研究している分野は文化人類学だった。そもそも、高校生の頃、彼が研究・発表して、一部で物議を醸すと同時に、彼の名前を一気にアカデミーの世界へ押し上げ、知らしめた論文『現代民俗学の可能性と限界~歴史無き民の為の比較文化学的冒険~』は、彼が今後、文化人類学を研究し続けていく為の宣誓の書として読み解くコトも出来る内容であった。
つまり民俗学を学ぶ為に進学した絵梨子にとって、秀一郎は凄く刺激的な存在であり、彼がたまに語る話は、絵梨子の学術的興味を十分に満たし興奮させるものであったワケなのだった。