弓を張る月
「覚悟の上です、南教授!」
絵梨子は、芝居掛かった秀一郎の話しぶりに乗っかって返答した。秀一郎の瞳がメガネ越しに絵梨子を見据える。
「西村研究員の意思は固い様だな……」
折りしも窓から射し込む午後の日差しを受けて、秀一郎のメガネがキラリと光った。
「ハイハイ、もうソレはイイから、一体、何の研究なのよ?」
絵梨子は秀一郎に付き合うコトなく、今度はサッサと先を促した。
「ん、うん。え~とねぇ……う~ん……そのぉ~、何だ……」
しかし何故か研究内容を言い淀む秀一郎。何か様子が変だ。絵梨子は、そういう所をキチンと突っ込んでいかずにはいられない性格である。
「何よ、勿体ぶってんの? それとも、アタシには教えられないってワケ?」
「イヤイヤ、そんな、教えられないとか、そんなんじゃなくて、その~、え~と、何て言ったらイイのかなぁ~」
最早、シドロモドロの秀一郎。「一体、何なのだ? アタシのこの学術的好奇心の高まりを不完全燃焼で終わらせる気か!」絵梨子は心の中でそう呟いた。
「テーマくらい教えてくれてもイイじゃない」
絵梨子が少々、ご機嫌斜めになり掛けてきているコトくらい、流石に鈍感な秀一郎にも感じ取れた。
「うん、そうだね。テーマね、テーマ!そうだなぁ……え、え~っと……何だ、その~、『電脳社会に於けるモニターの向こう側の非常民の存在』とでも言おうかな。うん。そんなテーマなんだ。アハハハ……」
取って付けた様な秀一郎の愛想笑いが何とも説明しがたい恥ずかしさを誘う。
明らかにバツの悪そうな表情の秀一郎の顔からは「やっちまったぁ~」という心の叫びが聞こえてきそうである。
「ハイ? 何々? 電脳社会に於ける……何の存在?」
秀一郎の慌てぶりを見ながら、絵梨子は「非常民」という民俗学の世界では聞きなれたキーワードを発見し、秀一郎が言い淀んだワケを何となく理解した。
絵梨子は、芝居掛かった秀一郎の話しぶりに乗っかって返答した。秀一郎の瞳がメガネ越しに絵梨子を見据える。
「西村研究員の意思は固い様だな……」
折りしも窓から射し込む午後の日差しを受けて、秀一郎のメガネがキラリと光った。
「ハイハイ、もうソレはイイから、一体、何の研究なのよ?」
絵梨子は秀一郎に付き合うコトなく、今度はサッサと先を促した。
「ん、うん。え~とねぇ……う~ん……そのぉ~、何だ……」
しかし何故か研究内容を言い淀む秀一郎。何か様子が変だ。絵梨子は、そういう所をキチンと突っ込んでいかずにはいられない性格である。
「何よ、勿体ぶってんの? それとも、アタシには教えられないってワケ?」
「イヤイヤ、そんな、教えられないとか、そんなんじゃなくて、その~、え~と、何て言ったらイイのかなぁ~」
最早、シドロモドロの秀一郎。「一体、何なのだ? アタシのこの学術的好奇心の高まりを不完全燃焼で終わらせる気か!」絵梨子は心の中でそう呟いた。
「テーマくらい教えてくれてもイイじゃない」
絵梨子が少々、ご機嫌斜めになり掛けてきているコトくらい、流石に鈍感な秀一郎にも感じ取れた。
「うん、そうだね。テーマね、テーマ!そうだなぁ……え、え~っと……何だ、その~、『電脳社会に於けるモニターの向こう側の非常民の存在』とでも言おうかな。うん。そんなテーマなんだ。アハハハ……」
取って付けた様な秀一郎の愛想笑いが何とも説明しがたい恥ずかしさを誘う。
明らかにバツの悪そうな表情の秀一郎の顔からは「やっちまったぁ~」という心の叫びが聞こえてきそうである。
「ハイ? 何々? 電脳社会に於ける……何の存在?」
秀一郎の慌てぶりを見ながら、絵梨子は「非常民」という民俗学の世界では聞きなれたキーワードを発見し、秀一郎が言い淀んだワケを何となく理解した。