最大の出来事
 時間を長引かそうとする璃穏を育実は横目で見ながら、溜息が出そうになったので堪えた。
 翌日の午後は無事に時間を過ごして、学校が終わったときに璃穏と育実は一緒に帰っていた。周囲に生徒達がほとんどいなくて、いつも賑やかな場所が静かな場所のように思う。

「育ちゃん」
「何?」

 璃穏が急に立ち止まったので、育実も立ち止まる。

「俺が住むようになってから、名前をほとんど呼ばないね」
「そ、そんなことないよ!」
「そんなことあるよ」

 育実は当然、璃穏の名前を忘れてなんかいない。

「呼んでみて」
「はい?」
「俺の名前、忘れていないでしょ?だったら呼んで」

 呼び捨てにすることもできなかったので、こう呼ぶことにした。

「璃穏君」
「はい、育ちゃん」

 育実はこれから璃穏を呼ぶとき、君をつけて呼ぶことに決定した。

「これからはそう呼んでね」
「うん、わかった」

 次の日、学校の授業が全部終わったので、育実と璃穏は一緒に家に帰っている。

「育ちゃん、今日はみんな帰りが遅いでしょ?」
「うん。そうだね」

 それぞれ用事があることを育実も璃穏も知っている。

「たまには外で食べない?奢るから」
「いいの!?」
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