最大の出来事
 家で作ることも外で食べることも育実は好きなので、素直に嬉しく思った。

「うん。お金をもらったから」
「もらったって・・・・・・誰に?」
「親にだよ」

 先日、璃穏が母親のお見舞いへ行ったときに父親もいて、そのときに育実のことや家族のこと、学校の話などをしていると、お金をもらった。

「いつもお世話になっているからね」
「そんな、いいのに・・・・・・」
「育ちゃんは俺の奢りだったら不満?」

 にっこりと笑う璃穏の笑顔は心から笑っているものではない。どす黒いオーラを纏っている。
 敏感な人がいたら、育実と同じように怯えているに違いない。

「お言葉に甘える」
「いい返事」

 先に家に帰って、私服に着替えてから、出かけることにした。
 普段は化粧をすることがない育実でもリップくらいは必要だと感じて、前に買ったリップエッセンスを塗った。

「育ちゃん、支度できた?」
「うん、できたよ」
 
 璃穏がじっと育実の顔を見つめている。

「璃穏君、どうかした?」
「いや、ひょっとして唇に何か塗った?」

 璃穏は自分の唇を指でトントンと叩いた。

「うん、リップエッセンスを塗ったよ。よくわかったね?」
「香りが漂ってきたから」
「それでわかったんだね」
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