最大の出来事
 目の前にいる人が育実の名前を呼んだ気がする。初対面で知らなくて当然なのに。

「信多さん。聞こえなかった?」
「どうして・・・・・・」

 目の前にいる男は髪の色を茶色に染めている。綺麗な顔立ちで、全身を見たところ、いくつも古傷が残っていて、どこかの不良と間違われてもおかしくなかった。
 こんな怖い人と知り合いのはずはないと思いながら、育実はかなり焦っていた。

「聞いている?」
「聞いていますから、暴力は勘弁してください!」
「ぼ、暴力?」

 男は怪訝そうに育実を見つめている。

「私、反省していますから!あの、倍返しにして痛い目を見せたいとか、考えているかもしれませんが、お願いします!それ以外でしたら、何でもしますから!!」
「何でも?」
「はい!」

 男はしばらく考えてから、口を開いてこう言い放った。

「じゃあ、これから俺の世話をしてもらおうかな?」
「喜んで!!」

 ほっと胸を撫で下ろしていると、男の鞄の中に入っている携帯電話が鳴って、男は何やら操作している。
 操作を終えた男はもう一度育実の顔を見る。
< 4 / 141 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop