最大の出来事
 母親の横顔を一瞥してから、育実は自分の部屋へ行って、料理の本を読みながら、何度も窓の外を見ていた。
 そのことに気づいた育実は気を紛らわせるために適当な音楽を流した。

「育実」

 育実の部屋の前に立っているのは空夜。

「ちょっといいか?」
「いいよ」

 空夜が部屋に入ると、育実は座布団を渡した。

「珍しいな」
「何が?」
「璃穏兄ちゃんの髪、黒髪のままだった・・・・・・」

 イヤーカフスだってしていなかったことを育実に報告する。

「どうして私に言うの?」
「そうするのはさ・・・・・・」

 育実が続きを待っていても、空夜はそれ以上何も言わなかった。

「中途半端・・・・・・」
「どう言葉にしたらいいのか、わからねぇんだよ」
「国語の勉強でもする?」
「どうしてそうなるんだ!?もういい、十一時過ぎに昼食にしようぜ」

 空夜を呼んでも、もうすでに部屋から出て行ってしまった。

「何が言いたかったの?」

 育実は部屋でひたすら考えていた。
 しばらくしてから、冷蔵庫の中を確認して、昼食の準備を始めた。煮魚は前から作っていたから、味噌汁を最初に作ることにした。
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