最大の出来事
「育実、今日の煮魚、少し薄いぞ」
「ごめん・・・・・・」

 両親が先に食事を済ませたので、育実と空夜は向かい合わせになるように座って、食事をしている。
 いつもちょうどいい味なのに、今日はそうではなかった。

「育実さ・・・・・・」

 空夜は静かに茶碗と箸を置いた。

「璃穏兄ちゃんがいなくて寂しいだろ?」

 一瞬、目を見開いた育実は小さく頷いた。
 いつも当たり前のようにいる人がいなくなっただけで、まるで心に穴が開いたようだ。

「夕飯を食べる前には帰ってくるんだろ?」
「そうだよ・・・・・・」

 わかってはいるけれど、やはり寂しさは簡単に消えたりしない。

「璃穏兄ちゃんの好きなものでも作ってやれよ」
「天津飯?」
「それは前に食べただろ・・・・・・」

 空夜は呆れながら、大根の味噌汁を啜る。

「だって・・・・・・」

 璃穏は育実が作る料理だったら、どれも笑顔で食べてくれる。
 その中で一番良い笑顔を見せたのが天津飯を作って、食べてもらったとき。

「冷めるぞ」

 空夜は全く料理を口に運ばなくなった育実に言うと、無表情で料理を見下ろした。
 育実はいつも以上に食べるペースが遅かった。
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