君がいないと落ち着かない
この店は忍の家から遠い場所にあるが忍にとっては憩いの場でもあった。
本の品揃えといい、匂い、雰囲気が忍の心に染み込んで癒していく。
紙袋に包まれたJYANDOL-Ⅲ-の蒼く濁りの混じる色の本を胸に抱え、笑み隠しながら書店近くの駅へ向かった。
コンビニの脇、駅前の忍がこの場に初めて来た時から閉まったままのシャッター近くに人混みが、何かを囲むように集まっていた。
アンプを通して出るエレキの音が人集りの真ん中から聞こえた。
徐々に人集りに近付くと若い男子が4人それぞれの楽器を待って立っていた。
エレキギターを持った1人の男子がボーカルもしているのか、マイクに口を近付け話しだした。
《え、次の曲で最後です。聞いてくださりありがとうございました》
マイクに話掛ける男の声はただ低いだけでなく無邪気さも備えていた。背の高いスラリとした男は深く帽子を被っていてどんな顔なのかは分からなかった。