君がいないと落ち着かない

ヘトヘトになりながら土手を上がると、石で出来た手すりの無い短い橋が川を挟んだ向こうの土手に掛かっているだけで、誰もいなかった。
「忍」
逢いたかった人の名前を呟く。
ズボンの後ろのポケットに手を伸ばして携帯を掴んだ。
《はい》
数秒のコールの後、電話の向こうにいる忍の声が聞こえた。
「忍?」
《何?》
昼寝をしていたのか、霞んだ甘ったるい声が千尋の耳に届く。
「ちーって呼んでくんない?」
《誰を?》
「俺のこと………」
チクチクと身体に針を刺される間に気持ちが負け、「やっぱいいや」
そう言って電話を切った。




『ちー』
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