君がいないと落ち着かない
「顔がよく見えないから」
2人とも何も言わずに、ただ橋の上で俯いたままでいる。
「コンビニに行きたい」
シャボン玉みたいに自然に弾けた千尋の言葉に、柔らかく頬が緩んだ。
「一緒に行っても?」
上目遣いで千尋を見上げていると、彼は忍と目線を合わせてから小さく頷いて、手を目の前に差し出しだ。
付き合ってから何週間が経ち、今までで何度、顔を合わせて来られたのだろうか。
電話では何度も話した。
だが、こうやって直に話すことは数える程しかないだろう。
「嫌?」
差し出された手を見つめて黙っている忍に、千尋が覗き込むようにして問い掛けてきた。
「着込んでて暑いから、手汗が!」
「ぶはっ!アハハハハッ」
腹を抱えて笑い声を上げる千尋はその場で崩れた。
「笑い過ぎ」
丁度、手の届く位置にある俯いた千尋の頭に思いっきりチョップする。