君がいないと落ち着かない
「どうした?」
「ん?」
「辛そう」
一瞬にして千尋の表情に痛みに似た感情が混ざり込んだ。
「105円」
ダッフルコートに入れていたがま口の小銭入れからちょうど105円を取り出して、千尋に差し出した。
「何かあった?」
目の前に差し出した忍の右手には、千尋が受け取らずにいる2枚の小銭がまだ握られたままだ。
「……受け取って」
「…」
眉間にしわの寄った表情を絶やさない千尋を宥めるような、穏やかな口調で言うと、渋々という感じで千尋は小銭を受け取った。
「…ありがとう」
受け取ってくれて、ということに対してのありがとうだったが、千尋は忍の言葉に困惑を浮かべた。
「もう、今日も終わりだ」
「うん」
また去っていく。