君がいないと落ち着かない

千尋が楽しければいい


眉間にしわを寄せたまま、目をつぶる忍の姿が目の前にある。
左耳の上にはさっき、千尋が付けた猫の形をしたバレッタがある。
このままキスしたら怒るかな?
ぽってりした唇は赤く色付いているが、寒さで皮が剥けてカサついて見える。
まだ目をつぶって無防備な忍の顎にそっと右手を添えて親指でカサつく唇を撫でると、ビクッと体を揺らして一歩下がってしまった。
「ごめん!」
目はつぶったままだが、刻まれた眉間のしわが更に深くなった。
手をサッと離すと同時に、彼女の瞼が上がり瞳に光が差し込んだ。
鋭く、清純な視線から逃げるために下を向いて地面を見つめた。
頭の上では、忍の左手が耳元のバレッタをそっと撫でているようだった。
「猫?」
サバサバとしたいつもと変わらない声色で聞いてきた。
顔を上げ、頷いて答えると満足そうに小さく微笑んだ。


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