君がいないと落ち着かない

「いい、行く」
見るからに気分が悪いのを耐えている表情で歩きだした忍だったが、その向きは千尋の家とはまるっきり真逆だった。
「忍、逆…」
苦笑いで告げると、唇を突き出して不機嫌な顔をした忍が振り向き、千尋の指差す方向へ歩きだした。
思わず、堪えていた笑いを噴き出したが、忍ば睨んだだけで何も言わなかった。
「ごめん」
急いで忍の横に並んで謝ると、突然体当たりしてきて、跳ね飛ばされた。
驚いて忍へ目を向けると、意地悪な笑みをこぼしていた。
数十分ほど掛かって千尋の家に着いた。
「いらっしゃ~い」
マンションの5階までエレベーターで上がり、降りてすぐ横のドアの鍵を開けて忍を招き入れた。
「お邪魔します」
細々と呟く忍。
冬の寒さが気分の悪かった忍には心地よかったのか、顔色は十分明るかった。
「お家の人は?」


< 131 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop