君がいないと落ち着かない

千尋は忍を先に家に上げるために開けたドアのせいで、家の中の様子が分からなかった。
向こう側から聞こえる声に答えようとすると、忍の両目がドア越しにひょこっと出てきて思わず声を上げそうになった。
「いない?」
改めて見ると可愛かったが、驚きで心臓がバクバク動いていて声が可笑しくならないよう必死に抑えた。
「靴が見当たらない」
そう言って一度瞬きすると、ぱっちりした目を引っ込めた。
千尋も中に入って確かめたが、玄関に靴は見当たらなかった。
多分母は仕事に行き、実尋は下駄箱に靴を閉まったか友達の家にでも行ったのだろうと千尋は思った。
「ぅおわっ!」
女子とは軽く思えない低くドスの効いた声が耳に入った。
千尋が目をやると忍の前に、白い毛並みのトイプードルの“ぼたもち”とマルチーズの“もちも”が尻尾を振って通路を塞いでいた。
「平気、噛まないよ」
忍を宥めるように声を掛ける。


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