君がいないと落ち着かない

千尋は元から忍にとって遠い存在の人、舞い上がって、別れた時に泣き縋らないよう今付き合っているのはただの気まぐれだと思うようにしている。
「……好きだよ、忍」
ぁあ、こうやって女の子は千尋に落ちてしまうんだろうと思った。
今欲しい言葉をさらりと言ってくれる、どうやったらこの男に惚れなくてすむのだろう。
「起こした?」
「さっき…」
「じゃあ、聞いてた…」
頷いてもなお、目線を逸らさずにいる千尋が腰に回した手に忍はそっと引き寄せられた。
布団の上に倒れた忍の背中に、千尋の体が密着してきた。
じわじわと感じる千尋の体温に胸をドキドキさせながら、忍は体を強ばらせた。
「好き、だから付き合った」
「その言葉、女の子に何回言った?」
「え?言葉にトゲがあるよ」
苦笑いの声が忍のうなじに掛かる。
捻くれた彼女だ…なんて思っていると、腰に回していた千尋の手が上に上がって肩を抱いてきた。


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