君がいないと落ち着かない
ガラッ
「智弥~、古典の教科書貸して」
突然、忍の横の壁にある小さな木の窓が開いて、廊下から顔を出した男子生徒が叫んだ。
「シノちゃん、横!つか後ろ!」
目の前の林が、慌てながら忍を促す。
聞き返そうと思ったが、早く早くと急かすので、チラッと見てみると真剣な表情をした千尋の横顔がそこにあった。
すぐに元に戻して林を見つめる。
どう反応すればいいんだろう…
まさか話し掛けられることは、無いだろう…
食べてる忍と河崎の後ろを通って、松浦が千尋に教科書を渡す。
「忘れたの?」
「うん、ありがとう」
携帯を通してない、笑いを含む千尋の声に、どこか懐かしさを感じた。
低くて、明るくて、陽気に笑いながら話す千尋の声。
こんなに近くにいるのに、話す相手は自分にではないことが、あの声は忍に向けられたものじゃないってことが酷く寂しかった。
松浦が席に戻ったことで、千尋が自分のクラスに帰ったんだと分かった。