君がいないと落ち着かない
勉強に使った教科書を、教室に持って行って机の中に入れる。
時計を見ると、最終下校時刻が迫っていた。
早くしないと見回りに来た事務の人に叱られてしまう。
さっき通った3組の教室の前の廊下を通り過ぎて、C館唯一の階段を降りていると、下から階段を上ってくる足音が聞こえた。
事務の人だろうか?
だったら、最悪だ…
注意されたりするのが嫌いな忍は、誰にも会わないうちに帰ってしまおうと思っていた。
なのに鉢合わせてしまったら、結局、怒られてしまう。
階段を叩く、忍の足音と上がってくる足音が重なる。
最悪だ、最悪だ、最悪だ、最悪だ!!
「忍?」
低いくせにはっきり耳に届く声に、優しく包むような話し方をするのは、忍の知るかぎり彼だけだ。
階段の踊り場にいる忍からは、数段下にいる千尋を見下ろす形だ。
部活で走り回ったのか、ほんのり頬が赤くなっている。