君がいないと落ち着かない

笑顔で忍を見つめる姿は、餌を欲しがって尻尾を振る子犬のようだ。
前髪の毛先が汗で濡れている。
第二ボタンまで開いたYシャツを通して、襟足も濡れてるのが見えた。
「良かった~、忍で…」
ハァと一息漏らした千尋は、階段の手すりに寄り掛かって、忍を見上げながら呟いた。
何も言わずに立ち尽くしていた忍は、取り敢えず千尋の方へ近付いた。
事務の人かもしれないという緊張が、今の状況が分からなくしていた。
「一緒に帰ろう」
優しく笑う千尋を見て、ふと、昼のことを思い出した。
2人で下駄箱を抜けて外に出ると、もう暗く遅いせいで生徒の姿は全く見えなかった。
空を見上げれば、鋭く冷たい気温も助けてか、星の光が真っ直ぐ忍に向けられているように思えた。
あの漆黒の中に闇の中に、どれだけの光があるのだろうか。
先に履き替えた忍は、空に輝く光のことを、後ろで革靴が地面を歩く音を聞きながら、そんなことを考えていた。


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