君がいないと落ち着かない

「ヒック…、」
「何それ、俺のこと言ってる?」
ズズッと鼻をすすって、ハァと息を溢す。
遠くにポツンと立つ千尋の顔が、闇に溶けて表情が分からない。
「…そんなに俺に不満が溜まってるの?」
眉を八の字下げた千尋は、ヘラヘラと笑っている。
もう正気が取り戻せなかった。
一度吐いた暴言は、落ち着くまで止まることはない。
真っ暗な背景の中、微かに映し出された千尋は、今にも泣き出しそうな顔で、ただ忍を見つめている。
「ごめん、帰る」
その視線に耐えられなくなった忍は、千尋のいるあの切り離された世界から、早足で逃げることしか出来なかった。

次の日、いつもより早く学校に来た忍は、教室の窓を開けて廊下を気に掛けていた。
待ってるのは千尋じゃなくて、その友達の“榊”という男子だ。
でも、なかなかくる気配がない。
千尋がくる前に、話したいのに…


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