君がいないと落ち着かない
細く高い鼻や白髪混じりの細めの眉、その下から千尋を睨み付ける鋭い目から典型的な父親の威厳さを感じる。堅く結ばれていた薄い唇が開く。
「授業中に寝るな」
耳に響く詩人のような低い声が身体中に染み込むようだ。爪の先まで流れ着くのを感じながら「すいません」と指先に視線を向けたまま謝った。教師は教卓の方へ歩いていき授業を再開させた。
「なんで俺怒られたんだ?」
「寝てるからだろ」
当たり前とでも言うように、柊一郎が千尋の机の上に置いた腕に顔を乗せて言った。背もたれに背中を預け、手足をだらんとさせた千尋はすねたように口を尖らせて呟いた。
「あの子が出てくっからだ」
「あの子?」
すかさず晶が食い付いてきた。
「あの子って?女子か!」
声を潜ませながらも、今すぐジャンプし始めそうなほど気分が上がっていることが分かった。
「何?ちー君彼女いんの?」
クラスの中でも目立つ女子達が近付いてきた。晶の声が聞こえたんだろう。