君がいないと落ち着かない
結局、青年はそのまま石碑のように固まって死んでしまった。
泣きはしなかったけれど、酷く痛々しく、心に残った映画だった。
「帰ろうか、暗くなりそう」
「うん」
もう忍の頬に映っていた赤みは消え、血色のいい白い肌に戻っていた。
「千尋は大学?短大?」
「大学かな~」
そういや、まだ考えてなかったな…
階段を並んで下りて、下駄箱を抜けて校門を出ると、突然忍が振り返って止まり、校門にある森山高校の文字を見つめた。
「どうした?」
「…私、併願なんだ。第一希望が落ちたから、ここに入ったの」
文字を指でなぞりながら、話を続けた。
「でも、林達に会えたし、千尋と出会えたし…、人生って凄いなって」
「うん、しかも付き合ったし」
「それは、てめぇが惚れたんだろ?」
意地悪な笑みを見せると、“校”の字をなぞり終えた人差し指を、千尋に向けて、さらに小悪魔な笑みで言った。