君がいないと落ち着かない

バスケ部の部室のある棟は彼女達が向かった先とは真逆の場所だ。沈む気分を抑えきれずにため息が漏れた。部室に入ると、2組の松浦(マツウラ)が分厚い本を読んでいた。陽気な性格だが、どこか取っ付きにくい奴で毎回話の波を掴まないと意味不明な会話になっていってしまう。
「よっさん!松浦」
「よっさん!ちー君」
松浦は本から視線を上げ付属の紐を挿んで閉じ、自分の脇に置いてバッシュの紐を締めなおした。
「ずいぶんと厚い本ですな~」
脇に置かれた本を覗く。
「前の席にいる女子に借りたんだ」
「ふーん。何で借りることになったんだ?ずっと読みたかった本なのか?」
「前の女子が読んでた本だよ。授業中に、下に置いてあるバックに教科書を乗せてその上に本を開いて置く。そうやって読んでるから、後ろの俺も読めるわけ。こっそり読んでたら楽しくなっちゃってさ~、貸して貰った」
視線はバッシュの紐に向けたまま何の抑揚もなく言った。


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