君がいないと落ち着かない
『あ、すいません』
女子の声だった。周りの女子より低めの安定感のある声だが、千尋には暖かくぬくもりを感じ気がした。振り返ると、ぱっちりした大きな目を開いて、ぽってりした唇半開きにしていかにもびっくり驚いてますという表情をしていた。
あの子だ!
すぐに分かった。肩までの髪をふわり内巻きにしている。きっと俺にぶつかって驚いたんだろう。
全体的に「ぶつかってごめんなさい」をかもしだしていた。
彼女は輪のなかに入って「ぶつかっちゃったじゃん!」と背の高い女子に言っている。階段で彼女と一緒にいた1人だった。
教師の呼び掛けで組みごとの一例に並んでいると、彼女は隣の2組の列の3番目あたりにいた。
嬉しくて体育座りをして膝に、ニヤける顔を埋めていると、担任に丸くしたプリントの束で叩かれた。クスクスとクラスの人に笑われた。
彼女を見ると、そのあぐらをかく後ろ姿しか見ることが出来なかった。