君がいないと落ち着かない
こんな窮屈な場所にキチキチに詰められた本を可哀想に思い、千尋は本の背表紙に右手の指先を撫でた。冷たく伝わるその感触に目を伏せた。さっきまで学校の体育館で走り回っていた自分と買われるのを待ちながらただ同じ体勢で並んでいる本。
文字ばかりが綴られているのは嫌いだが、物語を知ることはバスケをしてる時と同じくらい楽しく感じる。
触れていた背表紙から手を離して横に続く棚に沿って歩く。棚の端には椅子が用意されていて座って呼んでいる人が自分の世界に入っている。本だらけの世界に飽きが増してきた頃、棚の一番端に来ていた。
ゲームやCDを探そうと来た通りをまた戻って棚と棚の間を覗きながら歩いていると、千尋と同じ高校の制服を着た女の子が棚を眺めていた。
入り込むような目つきで本を見上げるその女子は踵を上げてつま先立ちになると、右手を伸ばして本を抜き出した。伸ばした腕を引き寄せる間、彼女の目はずっと本に向けられているようだった。