君がいないと落ち着かない
「その本『買うんですか?』」
声のした方へ顔を向けると身長差で千尋を見上げてる青倉さんがいた。間近で初めて見た彼女は目が合った瞬間に視線を下げ、千尋の持つ本をジッと見つめた。
その瞬間、千尋は自分に向けられた質問を思い出した。
「あ、すいません」
咄嗟に持っていた本を目に入った本の隙間に押し込んだ。
何度も思い描いていた場面だったが、質問を思い出した途端に彼女から話掛けられたこと、今隣にいること、自分を一瞬見ていたこと、今手を伸ばせば青倉さんに触れることも、声を出せば彼女の耳に入ることも、色んな夢が現実になることも全て理解してしまった。
そう思った瞬間に心臓が壊れたように動き出して身体中が熱を作り上へ上へと上昇して顔に溜まった。
頬が熱くて熱くてたまらず、棚に戻したままずっと触れていた黒い背表紙から手を引き、俯いていた真っ赤な顔をそのままに下を見たまま彼女に背を向けて何も言わずにその場を逃げた。