君がいないと落ち着かない

そう考えれば迷いが生まれてもくるが、それでも最悪の場合だってあり得る。そう考えれば何が何でも手に入れなければならない。
取り敢えず彼に聞いてみて、もし買うのであれば徹底的に本を取りにいくし、買わないのであれば快く本を受け取ってそのままレジに直行すればいい。そう考えていたら何だか身体の中から沸々と心に余裕が湧いてきた。
「あの、」
本に向けられていた視線が動いて彼との視線が絡み合う。
「その本買うんですか？」
身体中に湧いていた余裕が一気に緊張に変わった気がした。身体中の沸騰した水分が顔に溜まったのかと思うほど熱くなり、それを気付かれたくなくて視線を本に動かした。彼は焦りと仔犬のような弱さを含んだ声で「すいません」と言って本棚に戻してしまった。そして、少しの間の後に忍に背中を向けて行ってしまった。
逃げられた。
忍にはそう思えて胸が何かで締め付けられて苦しくなった。
それと同時に恥ずかしくなった。