君がいないと落ち着かない
まるでお母さんに構って欲しくてたまらない幼稚園生みたいだった。
頭の上に石のような重みを感じながらずっと欲していた本の前へ立った。忍の目線よりかなり上にある黒いカバーに手を伸ばす。
届かねぇー!!
どんなに背伸びをしても、爪先立ちしても本に触ることすら出来ない。
あの男、背高過ぎるだろ!何食えばこんなにでかくなれんだよ!
今にも口からブツブツと愚痴がこぼしたい気持ちを抑えながら更に手を伸ばした。本棚にもたれ掛かり、棚を左手掴んでバランスを保とうとするが身体のグラグラは治まらず、力を入れすぎると棚をぶっ壊しそうで怖い。
「退いて」
隣で声がした。誰へ向けられた言葉だったのか分からないが今の自分の体勢からいって“退いて”と、見知らぬ人から敬語も使われずに言われただなんて忍ぐらいしかいないだろう。
声の主を見ようと体勢を保ったまま顔を左に向けると、済ました顔で忍を見据える松浦の姿があった。