君がいないと落ち着かない

倒れないようにそっと体勢を戻すと同じ高校の制服を着た松浦が横から出てきて、手を伸ばした。
さっき忍がとっていた体勢とよく似ていたが、動作があまりにしなやかでまるで同じだとは言う気にはなれなかった。
彼の手は忍がどんなに手を伸ばしても届かなかった本を掴んで本の間から抜き取り、自分の体の方へ引き寄せると表紙、裏表紙とカバーを眺めてから忍に差し出してきた。
突き出すように伸ばされた腕の先にある黒いカバーの漆黒が天井の蛍光灯で美しく、水のように光った本を受け取って優しく両腕の中へ引き寄せ、抱き締めた。
「ありがとう」
腕の中にある本を見ながら呟いた。目の前にいる松浦に対して言った言葉だったけれどまるで、本にも言っているように思えた。
「どういたしまして」
顔を上げると忍の腕の中にある本に視線を向けた松浦がそう言った。そして、視線を上げて忍を捕らえると「じゃあ、」と言って、忍を通り過ぎて出口へ向かって行ってしまった。


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