君がいないと落ち着かない
バスが宿泊先に着く手前、両脇の草や木々の葉の上にはまだ雪が残っていた。バスが停車し、前の座席の人から外へ生徒達が流れ出ていく。外はひんやりと冷たく、冷えた風が頬を掠め、車内で高まった体温を冷やしていく。
「雪だー」
バスから自分の荷物を取り出し、肩をいからせながら3人は草の上で寝ている雪に触れた。雪は一瞬凍るような反応をした後、受け入れるかのように忍の右手の上に収まった。手のひらに伝わる雪の冷ややかな温もりを感じ、騒めく辺りはまだ銀世界の余韻を残して、ただそこに佇んでいた。
6台のバスからぞれぞろと出てくる生徒達の波の中央らへんで学年主任が声を上げた。
「各部屋の班長は、自分の部屋の鍵を持って荷物置いたら、20分後にクラスごとに分けられた部屋に集合ー」
低音の年月を感じさせる声が響いた。生徒達がぞろぞろと動き出した。230以上の人間がごった返し、人間らしい淀んだ空間が澄み切った銀世界を押しやった。