君がいないと落ち着かない
靴を脱いで綺麗に並べられたスリッパに履き替えて通路に向かうとそこでも、大勢の生徒達で埋まっていた。通路の限られた幅の中でいつもより半分の歩幅で進んでいると、隣で忍と同じようにちまちまと流れに押されるかのような足取りのれー子が呟くように言った。
「出席番号で部屋分かれなくて良かったね」
ざわめきの中からやっとで聞き取れた言葉に「ね、それだけが幸いだよー」と返した。
「だけって?」れー子が聞き返す。
「バスに乗った瞬間から、すでにホームシックである」
ふざけた口調で返すと、前を向いたままの固まったような表情が緩み、れー子が声を出して笑う。耳にしっかりと届く笑い声がまるで忍達だけの空間のように思えて、胸の中に薄いピンクが広がる気分になった。
外出を好まない忍は、家にいる時間が一番楽しく、安らげ、落ち着く。家から、玄関から一歩でも外へ出ると家が恋しくなる。