君がいないと落ち着かない

彼女の魅力に惹かれ、結んでいた口からは言いたくても声が出ないような気がした。勢い良く声を出した。
「智弥…松浦いますか?」
華奢な肩がビクッとするのが見えた。その後に遠慮がちな声色でそっと言った。
「いないです」
彼女は千尋の目を見ながら言った。
千尋は一度瞬きをした後、右手で頭を掻きながら教室を見回した。
智弥のエナメルバックがあるかと思ったが、机の上には指定のスクールバックだけで、他に何も置かれていなかった。
「マジか…」
男が小さく呟いた。
千尋は忍の方へ視線を向けたが彼女は視線を深緑色の本に向けてしまっていたから、目が合うことはなかった。
智弥のことを考えながら教室の蛍光灯の灯りで赤く見える髪の毛を眺め、その紅色に惹かれていた。
智弥はどこにいるのだろうか。
まさか、帰ってしまったのか…
千尋は彼を疑い始めてもいたが、用事が長引いたのかと思い直した。


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