君がいないと落ち着かない

彼女の髪から伏せた目へ視線を変えると、忍の唇が微かに動き出した。
『どこにも行きませんよね?』
彼女の目は伏せたままだった。その表情からは何も分からず、質問の意味さえも分からなかった。困惑の表情を浮かべていると彼女と目が合い、そして口を開いた。
「あの…、学校辞めるかもって聞いたから本当にそうなのかなって思って…」
やっと質問の意味が分かった。突然彼女が何故そんな恋人みたいな言葉を発したのか分からなかったが、その言葉を聞いて分かることが出来た。
千尋はこの前の秋レクの後のカラオケでも同じことを聞かれていた。
頭の悪い千尋は赤点の回数が非常に多いために担任やノリのいい先生達から「榎本、お前留年しそうだぞ」と言われている。成績表に1がついたら留年が確定される。
そんな冗談に対して千尋はよく「だったら、学校辞める」などと言っていたが、もしかしたらその冗談を誰かが鵜呑みにして言い振らしたんだろう。
カラオケを始めとして、今日だけでも5回はこの事について聞かれていた。


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