君がいないと落ち着かない
その表情に忍は暖かい布団の中に潜り込んだ時みたいな至福に包まれたような気がした。
「ただの噂です。気にしないでください」
優しい声と共に、彼が高校を辞めないと確信出来たことに忍は安堵の笑みを無意識に溢していた。
柔らかい笑みは崩れることなく、彼は視線を忍の前の席に向けて言った。
「座っても平気ですか?」
同じ1年だということは彼も分かっていることだろう。
忍は馴れ親しんだ人にしかタメ語は使えないし、それでも何かをしてもらった時や迷惑をかけてしまったと思った時は敬語を使って感謝や反省を表わすことにしている。
だから千尋に対して敬語を使っていたのだが、まさか彼も同じように使ってくることが疑問に思った。
大抵のクラスメイトや同学年は、何故敬語なのかと聞いてくるが彼は違ったからだ。
「…多分平気です」
曖昧な返事を返すと「多分?」と笑いながら聞き返し「まぁいいや」と言って座った。
彼と目を合わせた途端、こんなに近いとは思ってもみなかった。