君がいないと落ち着かない
机を挟んでいたとしても手を伸ばせば彼が掴めてしまう。
こんなに近づく日が来るとは夢にも思っていなかった。
恥ずかしくて机の上に閉じて置いた深緑の本を見つめた。
「あの…」
頭に言葉がぶつかったような気分だった。
口籠もった彼も視線を下に向けたことが視界の隅に見えて分かった。
「…もし俺の勘違いだったら、恥ずかしいんすけど…」
お互いに顔を俯けて下を見つめている。
少しの間、教室は静まり返っていた。
外は沈み始めた陽が赤み帯びている。その光が廊下の窓を通し忍のすぐ隣の開いたドアから差し込んで、床を淡く艶やかな紅色に染めている。
野球部の金属バットにボールの当たる軽い音、林の所属している吹奏楽部の音色が静寂の中で一際大きく目立っていた。
視界の上の隅で彼がゆっくり顔を上げた。自分を見ているのかもしれないと焦って体が熱くなった。
汗が滲んでくる。