君がいないと落ち着かない

「……もしかしたら激しい思い込みかも知れないんですけど!」
決意した時のような勇ましさを含んだ声が教室の一角から響く。
響き渡る言葉のその先が気になった忍が、顔を上げると彼女を見つめていた千尋と視線が絡み合い、忍の体温が更に上昇した。
「……………………あの…」
千尋は忍からの視線に耐えきれなかったのか絡んでいた視線を解き、顔を俯かせて今にも消えてしまいそうなほど小さく呟いた。
また、沈黙が2人にのしかかってきた。
忍も視線を下げて深緑色のカバーを擦った。ザラついたカバーの表面は生き物の鱗のように思い、人間が動物に対する愛しさが込み上げてきた。
金色の文字でJYANDOLと掛かれた部分だけは周りよりも若干窪んでいる。
「あ…その本」
その言葉を聞いて、声のする千尋の方へ視線を上げると彼は本を見ていた顔を忍の方へ向けてやんわりと微笑んだ。
「知って……、あっ!」
何故この本を知っているのかと聞こうとして思い出した。


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