君がいないと落ち着かない

起きろと言っているんだ!!榎本!」
ハッとして顔を上げる。
教室の真ん中らへんの席の千尋は前を向けば必ず教卓と黒板が目に入る。
今は授業中なわけで、黒板の前には先生がいるはずが姿が見えない。
机に目を戻すと、線から大幅にズレた力のないヒョロけた文字がノートに並んでいる。
そこに蛍光灯の光によって浮かび上がる影が千尋の横から出ていた。
「榎本、横を見ろ」
そろそろと言葉のとうりに顔を向けてみると、そこには教卓の前にいるはずの化学の教師が横に立っている。
半端ないくらい鬼の形相で千尋を睨み付けている。
「集中しろ」
怒りも助けてか低く地を這うような声だ。
「…はい」
大人しく肩を竦ませて小さく頷いて返した。

「お前、さな~ん(科学教師の真田 準一(サナダ ジュンイチ))に君って呼ぶほど仲良かったんだな」
「うるせー」


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