君がいないと落ち着かない
「…」
千尋が何も言えずに黙っているとニヤリと片方の口角を上げて榊は笑った。
「決まり!」
ポケットから右の手を出した榊は、そう言って身を引いたままの千尋の肩をポンッと叩くと自分の席へと戻って行った。
その日の放課後は部活終わりに通った体育館通路で夏井がスクールバックを下げて立っていた。
「夏井」
彼の横顔に声を掛けると夏井の細く大人っぽい端正な顔立ちが千尋を見た。
「待ってた。一緒帰ろ」
夏井は千尋の方へ体の向きを変えると、右手を軽く上げて言った。
「うん、ずっと待ってたの?」
「いや、教室の窓からバスケ部が解散するの見えたから…」
語尾が薄くなる。
千尋が夏井に近づく間、目を離さないでいること、垂れ目と平行に眉がさがっていること、この2つは彼に辛いことがあった時に夏井なりのSOSだった。