君がいないと落ち着かない
1階のロビーに出ると、この建物に入った時に通った自動ドアの入口が見え、反対にソファーやお土産売り場があった。そこを横切って通り、さらに進むと丸太の曲線を最大限に使って縁取られた襖の部屋が並んでいた。手前から、梅・竹・松・鹿・鶴・川の絵が書かれた襖が開いてたり、閉まってたり、前の生徒が入っていたりしている。
「松竹梅なら分かったけど、鹿・鶴・川の意味は分からないね」
れー子が隣の、片方だけ閉まった鹿の絵を見ながら言った。
子鹿が草に鼻を付け、細く折れそうな4本の足を仁王立ちのように開いて、力強く立っている。
「うおっ!」
忍が右の踵に左のつま先をぶつけて転びそうになった。
前のめりになった体をとっさに出した左足で体の重心を支えた。
「危なかった~」安堵の息を吐き出しながら、そのまま歩くのを再開した。「シノちゃんって、本当に足元危ないよねー」
呆れたように横目で見てきた林と目が合った。