君がいないと落ち着かない

「何で教室に?お前帰宅部だろ?」
SOSに気が付いた千尋はそれとなく夏井の悲しみを探る。
直球に聞くと夏井は喉が詰まったかのように口を閉ざして黙り込むからだ。
「………零(レイ)といた」
「彼女とイチャイチャしてたのか!」
並んで歩きだしてすぐに夏井が言った。
ふざけ半分に返して彼の肩を拳で小尽いた。
よろけた夏井は小尽かれた場所を擦りながら続けた。
「でも喧嘩した」
「何で?」
「チューしたいって言ってきた」
寒さが主張してきた最近は日が短くなってきている。
艶やかな黒い画用紙に霧吹き状に星を振り掛けたような空を見上げて千尋は白い息を吐き出した。
「したの?」
マフラーに顔を埋めた千尋は左で絶え間なく行き交う車のヘッドライトに目を細めて聞いた。
「しない。あいつ多分自慢するために言ってきたんだ」


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