君がいないと落ち着かない

何て不釣り合いなのだと失望した。
「ふさわしいかなんて君が決めることじゃない」
彼が顔を上げるのが視界の隅に見えた。
真剣な表情で、上がっているように見えていた口角は綺麗に消え去っていた。
「他の誰でも、俺でもない……と思ったんですけど……」
そう言った後、彼は自信なさげに肩を落としてまた俯いてしまった。
「俺は君と…………」
「……あの後、悪魔のジャンドルは空腹から、人間であるトリスを食べようとします」
「え?」
「JYANDOLの世界の悪魔は主に人間を食します。でも、彼はトリスを食べることは出来ませんでした。…何故か分かりますか?」
「えっと…、彼女に恩があるから?」
首に手を当てて、戸惑いながらも答える。
「いえ、彼は彼女を愛してしまったんです。短い看病の中で芽生えた小さな愛です。まぁ、恩もあるかも知れませんが…」
ふと、俯いている忍の顔の横に長く骨張った手があることを視界の端に見えて気付いた。
頬を触られるのかと思った。


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