君がいないと落ち着かない

だが、彼の手は手は彼女に触れることを戸惑い躊躇った後、手の平を上にして忍の目の先に止まった。
「付き合ってください。周りなんて気にせずに」
顔を上げて彼の目を合わせた忍は、眉間にシワを寄せて真剣な眼差しの千尋に向けて落ち着かせるように微笑みを見せた。
千尋は困った表情に変わった。
その顔を見た忍は上を向く手の平に黒いカバーの本を乗せる。
忍の片手では重さやバランスを支えることは難しかったが、彼の大きな手はそれを難なく支えた。
「私は面倒くさい女ですよ?」
「ハハッ」
「嫉妬深いです」
「そりゃ光栄ですな~」
「食べてしまうかも」
冗談混じりに言った忍の一言に千尋は真剣な表情で彼女と目線を合わせてから、笑顔で言った。
「君に食べてもらえるなんて、俺は幸せな人間です」
お互いもう分かっている。


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