ムサシ・ひとり
わんす・あぽん・あ・たいむ
わんす・あぽん・あ・たいむ。
とある浜辺に、大嵐によって難破した船の残骸が打ち上げられていた。
「こりゃあ、でけえ船じゃ。どこの船だ?」
「南蛮からの船じゃろう、て、船主さんが言うてみえたぞ」
「何にしろ、大漁じゃ、大漁じゃ」
腰の曲がった老婆たちが、大騒ぎしながら浜に打ち上げられた木箱類を集めていた。
その中に一人だけ、若者が混じっていた。昨年ただ一人の身内であるごんべえ爺を失った、ごんただった。
「ごんた。どうじゃ、今度のえ物は。
お前の好きな何たらとか言う、赤い酒は見つかったかの? ふおっ、ふおっ」
しわくちゃの顔を、更にしわだらけにして、うめという老婆が話しかけた。
身寄りのなくなったごんたを、何かれと世話をしている、これもまた身寄りのいない老婆だった。
「うんにゃ、なにもねえ。もう少し波がないでから、少し沖にでてみるさ。前も、沖の方で見つかったからよ」
銀の皿を並べたようにキラキラと光る沖を見やりながら、ごんたが答えた。
「そうじゃのお、そうじゃったわ。まあ、明日にでも出してみいや」
「いやだめじゃ、おうめ婆。明日じゃだめじやて。流されてしまうかもしれん。今日じゃ、今日」
と、どこからか、ごんたの耳に弱々しい赤子の泣き声が入ってきた。
「おうめ婆。赤子じゃ、赤子が泣いとる」
「バカ言うでね。お前の空耳じゃ、空耳じ……うん? 確かに聞こえるの。
はてはて、南蛮船に乗っておったのか」
「おうめ婆。いたぞ、いたぞ! なんとも、大きい赤子じゃ。ほんに、南蛮人の子は大きいのお!
よおし、今日からは、わしの子じゃ。わしの子じゃ。ごんすけじゃ、ごんすけじゃ!」
とある浜辺に、大嵐によって難破した船の残骸が打ち上げられていた。
「こりゃあ、でけえ船じゃ。どこの船だ?」
「南蛮からの船じゃろう、て、船主さんが言うてみえたぞ」
「何にしろ、大漁じゃ、大漁じゃ」
腰の曲がった老婆たちが、大騒ぎしながら浜に打ち上げられた木箱類を集めていた。
その中に一人だけ、若者が混じっていた。昨年ただ一人の身内であるごんべえ爺を失った、ごんただった。
「ごんた。どうじゃ、今度のえ物は。
お前の好きな何たらとか言う、赤い酒は見つかったかの? ふおっ、ふおっ」
しわくちゃの顔を、更にしわだらけにして、うめという老婆が話しかけた。
身寄りのなくなったごんたを、何かれと世話をしている、これもまた身寄りのいない老婆だった。
「うんにゃ、なにもねえ。もう少し波がないでから、少し沖にでてみるさ。前も、沖の方で見つかったからよ」
銀の皿を並べたようにキラキラと光る沖を見やりながら、ごんたが答えた。
「そうじゃのお、そうじゃったわ。まあ、明日にでも出してみいや」
「いやだめじゃ、おうめ婆。明日じゃだめじやて。流されてしまうかもしれん。今日じゃ、今日」
と、どこからか、ごんたの耳に弱々しい赤子の泣き声が入ってきた。
「おうめ婆。赤子じゃ、赤子が泣いとる」
「バカ言うでね。お前の空耳じゃ、空耳じ……うん? 確かに聞こえるの。
はてはて、南蛮船に乗っておったのか」
「おうめ婆。いたぞ、いたぞ! なんとも、大きい赤子じゃ。ほんに、南蛮人の子は大きいのお!
よおし、今日からは、わしの子じゃ。わしの子じゃ。ごんすけじゃ、ごんすけじゃ!」