聖なる夜に永遠の約束を【クリスマス企画】
誰の声って…。
実花に言われるがまま耳を澄ませると、遠くから俺の名前を呼ぶ声がする。
「柊!柊!起きてよ!」
それは、紗雪の声で、悲痛なまでに叫んでいた。
思わず辺りを見回すと、後ろの遠い場所で丸く光る何かがある。
「あそこから、聞こえるのか?」
呆然とする俺に、実花が得意げに答えたのだった。
「そう。あの向こうに紗雪ちゃんがいるのよ。柊が帰る場所はあそこ」
「あそこ…?」
あの向こうには紗雪がいて、俺の名前を呼んでいるというのか?
「ねえ、柊。本当は今夜、紗雪ちゃんにプロポーズしようと思ってたんでしょ?私を忘れる為にも」
「そんな事まで知ってるのか!?」
「知ってるわよ。見てたもん。だけど、それって失礼な話よね。普通は、私を忘れてからプロポーズをするものよ」
光りの向こうが気になりながらも、実花の言葉に引き止められる。
「仕方ないだろ?俺は実花を忘れる事なんて出来ない。ゆっくり前に進もうと思ったんだ」
「それで紗雪ちゃんは幸せなのかなぁ。私なら嫌だな。好きな人の心に、他の女の人がいるなんて」
実花の言う事は最もで、反論が出来ない。
「ねえ、柊。今夜で私の事は思い出にしてよ。そして、柊は新しい幸せを掴んで欲しい」
「実花…。でも、俺はお前とここで別れるなんて出来ないよ」
すると、実花は大きなため息をついたのだった。
「まだ言うの?柊は、私がこの世を去って、すごく辛かったのよね?その思いを紗雪ちゃんに味わせたいんだ?」
「紗雪に、あの思いを…?」
全てに絶望して、生きている意味さえ失いかけたあの思いを紗雪に味わせる…?。
「柊だって、本当は気付いてるのよね?誰が一番好きなのかを。怖かったんでしょ?私を忘れる事が」