聖なる夜に永遠の約束を【クリスマス企画】
ワンコール、ツーコール。紗雪は、なかなか電話に出ない。
「ったく、何をしてるんだよ」
実花の事故があってから、俺は携帯が繋がらない事に過剰に反応してしまう。
あの日も、実花は電話に出なかった。
何度、着信を残しても折り返される事はなかったのだ。
「紗雪…、マジでどこにいるんだ」
緊張が一気に高まった時、ようやくコール音が切れ、いつもの明るく高い声が聞こえてきた。
「柊!?どうしたの?」
俺からの電話がよほど驚いたのか、思わず携帯を耳から離すほどの大きな声だ。
「いや、今何してるのかなって思って」
そう言った瞬間、チラチラと雪が舞いはじめた。
ホワイトクリスマスの始まりだ。
「今?お一人様を満喫中よ」
小さく笑う声に、俺はもどかしさを感じる。
それを聞きたいのではない。
今、どこにいるかが聞いたいのだ。
「どこにいるんだ?」
「だから、街よ。ウィンドーショッピング中」
「街…?」
“街”の言葉に、心臓が飛び跳ねそうだった。
ホワイトクリスマス、街。
それは、4年前のクリスマスを思い出させる。
実花を失ったあの日を…。
「紗雪、何で一人でウロウロしてるんだよ!」
冷静ならば出てくるはずのない言葉が、今の自分の混乱状態を表していた。
「何でって…。柊ってば、何を怒ってるの?」
戸惑う紗雪の声と共にノイズが入り始めた。
「あっ、おい!紗雪!本当に今どこにいるんだよ」
「今?実はね…」
その言葉の後、紗雪の携帯が切れてしまった。
「紗雪…」
電話をかけ直す手が震えるのは、寒いからではない。
まるで、4年前がフラッシュバックする様で震えが止まらなかった。
「紗雪、どうしたんだよ」
何度かけ直しても、携帯は“電源が切れています”のメッセージを流すばかりだ。
嫌だ。
もう大事な人を失いたくない。
気が付いたら俺は、全速力でその場を後にしていたのだった。