聖なる夜に永遠の約束を【クリスマス企画】

ワンコール、ツーコール。紗雪は、なかなか電話に出ない。

「ったく、何をしてるんだよ」

実花の事故があってから、俺は携帯が繋がらない事に過剰に反応してしまう。

あの日も、実花は電話に出なかった。
何度、着信を残しても折り返される事はなかったのだ。

「紗雪…、マジでどこにいるんだ」

緊張が一気に高まった時、ようやくコール音が切れ、いつもの明るく高い声が聞こえてきた。

「柊!?どうしたの?」

俺からの電話がよほど驚いたのか、思わず携帯を耳から離すほどの大きな声だ。

「いや、今何してるのかなって思って」

そう言った瞬間、チラチラと雪が舞いはじめた。

ホワイトクリスマスの始まりだ。

「今?お一人様を満喫中よ」

小さく笑う声に、俺はもどかしさを感じる。
それを聞きたいのではない。
今、どこにいるかが聞いたいのだ。

「どこにいるんだ?」

「だから、街よ。ウィンドーショッピング中」

「街…?」

“街”の言葉に、心臓が飛び跳ねそうだった。

ホワイトクリスマス、街。
それは、4年前のクリスマスを思い出させる。

実花を失ったあの日を…。

「紗雪、何で一人でウロウロしてるんだよ!」

冷静ならば出てくるはずのない言葉が、今の自分の混乱状態を表していた。

「何でって…。柊ってば、何を怒ってるの?」

戸惑う紗雪の声と共にノイズが入り始めた。

「あっ、おい!紗雪!本当に今どこにいるんだよ」

「今?実はね…」

その言葉の後、紗雪の携帯が切れてしまった。

「紗雪…」

電話をかけ直す手が震えるのは、寒いからではない。

まるで、4年前がフラッシュバックする様で震えが止まらなかった。

「紗雪、どうしたんだよ」

何度かけ直しても、携帯は“電源が切れています”のメッセージを流すばかりだ。

嫌だ。
もう大事な人を失いたくない。

気が付いたら俺は、全速力でその場を後にしていたのだった。

< 6 / 14 >

この作品をシェア

pagetop