闇ノ花



だけど、書物や荷物は一切なくて……。


押し入れを確認したら、きちっと畳まれた布団が入っていた。


まさか──。


ドクンと、心臓が嫌な音を立てる。


きっと山南さんは、道場で稽古とか、台所にお茶を取りに行ったりしているんだろう。





「山南さんも起きるの早いなぁ……どこにいるのかな」





なんて、気を紛らわすように独り言を呟いてみる。


その時、ふと、視界に入ってきた机。


その上に置いてある、一枚の小さな紙。


そこには、確かに山南さんの丁寧な字で、何かが書いてあった。


……私には、そんな達筆な字は読めない。


しかし、“江戸”という文字は何とか読めた。




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